「便利さ」との戦争 ― The war on convenience

これは廃棄物との戦いではありません。「便利さ」との戦いなのです。そして本当の戦争と同じように、この戦争にはすべてを解決できる銀の弾丸はありません。

この特集では、テイクアウェイ用のコーヒーカップについてさまざまな角度から検証しています。

今回私たちが対話したのはオールプレスのテイクアウェイカップを製造しているBioPak、そしてそのテイクアウェイカップを堆肥として地球に戻す事業を運営するWe Compostです。それから私たちのパートナーであり、8つすべての店舗でテイクアウェイカップの使用を廃止した一大スキーリゾートのCardrona Alpine Resortと、それとは逆に法律的な規制によりテイクアウェイカップしか使うことのできないJones & Coにも、これまでの道のりや内情を話してもらいました。

テイクアウェイカップにまつわる統計は実に驚異的です。なんと毎年世界中で製造されている5,000億個ものカップのうち、その大半がゴミとして埋立地に運ばれているというのです。

これは現代の「使い捨て社会」という問題のほんの一部にすぎません。しかし、ここで一歩を踏み出さなければ解決の糸口にさえたどり着けないのです。

周りを見渡すとよく分かるように、この社会は今、大きな転換期を迎えています。スーパーのカート置き場ではエコバッグを使おうというアナウンスが繰り返し流れているし、かの有名な黄色のMのロゴを冠したファーストフード店では、プラスチックストローの使用が廃止されました。そして、外部で行われているフェスやイベントではペットボトル飲料が買えなくなったところもあります。

使い捨てのレジ袋に続けとばかりにテイクアウェイカップは廃棄物の戦争の標的となりましたが、この問題は私たちが想像するよりもはるかに甚大です。長年にわたる環境への甘え、リサイクルの効率を上げるためのインフラの欠如、そして山火事のように一瞬で広がった誤った情報がこの現状を招いているのです。今後は厳しい規制でも導入されない限り、この廃棄物の戦争を終わらせることは難しいと言えるでしょう。

私たちは日々出される廃棄物を最小限に抑えるため、環境に配慮したパッケージをデザインするよう努めてきました。そして2011年以来、オールプレスのテイクアウェイカップはニュージーランドで商業用堆肥化可能製品としての認証を得て、完全循環型の経済 ― サーキュラーエコノミーを支えています。最近はリサイクル可能なリテールバッグを導入し、今はホールセール用のバッグも改良している最中です。もちろん簡単にはいきませんが、いくつもの試作品の製造や消費者テストなどを繰り返し、これ以上は無理だという限界を超えるために努力を続けています。ゴールは遠ざかるばかりのように思えましたが、歩みを阻むデコボコ道や行き止まりを越えてなお前進できたのは、この取り組みが社会に対して大きな効果を発揮できると信じていたからです。

「これは現代の『使い捨て社会』という問題のほんの一部にすぎません。しかし、ここで一歩を踏み出さなければ解決の糸口にさえたどり着けないのです」

もうひとつ、私たちが根気強く取り組んでいたのは再利用可能なカップ ― リユーザブルカップを世の中に流通させるというプロジェクトです。かと言って、ありきたりな製品を作ればいいというわけではありません。私たちは長年にわたりテイクアウェイカップを製造してくれているBioPakと共に、既存のカップとは違う特別な製品を作ることにしました。約一年をかけてオールプレスのデザインスタジオでは少なくとも50個以上の試作品を作り、そのうち17の型についてはニュージーランド国内でトライアルを実施しました。そして、この過程で得られたすべての分析結果を生かし、ついにオールプレスのロゴを有するにふさわしい、これ以上完璧なものはできないだろうというカップを作り上げたのです。新しいオールプレスのリユーザブルカップは以前のカップと比べて使用時の違和感は最小限に、そして地球への配慮は最大限になるように工夫されています。

しかし、このリユーザブルカップが世界を救う鍵だと信じるほど私たちはナイーブではありません。これは希望ある未来を目指すためのわずかな一歩です。世界という名の船が正しい方向に進むためには乗組員全員が共に舵をとらなくてはなりません。各国の政府が環境保全のために法の改正を進め、企業は未来を見据えた事業に取り組み、商売を営む者は日々の仕事のやり方を変え、私たち一人ひとりが便利さを追う日々は終わりだと気づく。それが「舵をとる」ということなのです。

「このリユーザブルカップが世界を救う鍵だと信じるほど私たちはナイーブではありません」

この問題を解決するもっとシンプルな方法もあります。例えば5分早く家を出て近所のカフェに行き、陶器のカップでコーヒーを飲むのはどうでしょう?何しろ環境に貢献できるだけでなく、バリスタとの会話を楽しみ、デジタルクラウドの支配から解放され、今日という日を気持ちよくスタートすることができるのだから。

人は毎日約35,000通りの選択を行っていると言われていますが、今日はそこにひとつ追加の選択肢を用意しました。あなたは「便利さ」と未来、どちらを選びますか?

使い捨て社会の未来 ― The future of single-use

リチャード・ファイン │ BioPak 創設者

使い捨て社会に関して世の中には誤った情報が溢れているとよく言われています。テイクアウェイカップの問題について、どのように考えていますか?
テイクアウェイカップをめぐるメディアの報道は、使い捨てのパッケージが環境に与える影響や飲食業界で使用される消耗品にプラスチックを使用することが、非現実的かつサステナブルでないことについて世間の認識を大きく高める結果となりました。
また、こうした情報が溢れるだけでなく、特定の製造会社やサプライヤーに特化したテクノロジーを普及させたいという思惑でミスリードが行われている動きもあります。しかし、使い捨て問題の解決に近づいていくためには、こういったテクノロジーは誰もが使えるものでなければなりません。コンポスタブル(堆肥化可能)、そしてコンポスト化のための技術は、まさに公共のものである必要があるのです。

テイクアウェイカップが廃棄物の戦争の標的になったことに対し危機感を抱きましたか?
メディアではよく悪者扱いされていますが、テイクアウェイカップはコーヒー産業の発展と成長に大きく貢献してきました。

私たちもお客さまにはできるだけ再利用可能な製品を使うようにアドバイスしていますが、外出先で食べ物や飲み物を気軽に買えるような使い捨てのパッケージは消費者には常に必要とされています。ただ、この問題に対してサステナブルな解決策を用意することも十分可能なのです。

「私たちはテイクアウェイカップのような使い捨てパッケージがリサイクルできないという問題点に対して、メディアや消費者が関心を持ってくれているのは良いことだと思っています」

私たちはテイクアウェイカップのような使い捨てパッケージがリサイクルできないという問題点に対して、メディアや消費者が関心を持ってくれているのは良いことだと思っています。使い捨てパッケージの非リサイクル性に対してメディアや消費者が注目することで世間の問題意識が高まるとともに、さまざまな業界・団体、そして政府を刺激し、ブランドオーナー、カフェ、原料のサプライヤー、製造会社、物流業者など、みんなが解決策を見つけようとするきっかけとなったからです。

使い捨て製品の未来はどうなると思いますか?
私たちは使い捨てのパッケージの未来はコンポスタブルであると断言できます。堆肥にできる原料を使用することで廃棄物の収集も簡単になるし、生ゴミやパッケージ資材を埋立地へ運ばなくても処理できるようになります。

埋め立てられるカップの数を減らすためには、パッケージデザインの変更とコンポストインフラへの投資の両方が必要です。

コンポスト製品の利用をさらに拡大するためには、それに伴ったインフラを整えることが重要だと考えています。例えば、オーストラリアとニュージーランドで急ピッチで進められている有機物の分別収集、堆肥化、そして酸素を遮断して細菌による分解を行う嫌気性消化施設の建設など、コンポスタブル製品を処理するための適切な環境整備が挙げられます。

廃棄物の未来 ― The future of waste

スティーブ・リカビー │ We Compost 創設者

We Compostを始めたきっかけは?
もともと私は市内の保険会社で働いていたのですが、そこではコンポスト製品、リサイクル製品、そしてゴミの3種類に分ける分別ボックスがとてもきれいに並べられていたんです。だけど、あるときコンポスト製品が直接埋立地へ運ばれていることに気づき、この問題を解決するためにトラックの荷台にコーヒーのかすを入れたビンをひとつ置いて、コンポスト製品の回収を始めることにしました。

We Compostを設立してから世間の評価はどのように変化したのでしょうか?
環境問題に対する世間の意識は驚くほどの勢いで変化しています。私がWe Compostを始めた当初は誰もこういう問題に関心がないように思えましたが、今ではまるでスイッチが入ったかのようにみんながWe Compostのようなサービスを求めるようになりました。コーヒー業界においてはコンポスタブルカップへの移行や使い捨てプラスチックの廃止が良い例で、さらに有機廃棄物を埋め立てないようにすることが次のステップになると言えるでしょう。

「廃棄物の事業を立ち上げておいてそんなことを考えるなんて、おかしなことに思えるかもしれませんが…」

廃棄物の未来はどうなると思いますか?
どのような体制であれ、廃棄物が出るというのは非効率の表れです。近い将来、私たちは再生資源やクローズド・ループ・リユースといった循環型経済へのシフトを世界レベルで経験することになると思います。そして、もっと長い目で見ればこの社会システムから廃棄物そのものをなくすことが求められてくるはずです。廃棄物の事業を立ち上げておいてそんなことを考えるなんて、おかしなことに思えるかもしれませんが、廃棄物ゼロの未来に行き着くまで、その取り組みを支え発展させていくようなビジネスがしたいと思っています。

使い捨てのパッケージを減らす方法 ― How to reduce single-use packaging

ニーナ・ロゴンケア │ Cardrona Alpine Resort バリスタ・コーディネーター

あなたが解決に導いたという問題は何ですか?
3年前にCardrona Alpine Resortで働き出したときは、ちょうどハイシーズンの真っ只中でした。トレーニングは1時間だけで、そのあとすぐに現場に放り出されたんです。問題はグループの中の何店舗かがただお客さまが入るためのキャパシティを増やすためだけに作られたということです。 フロアはものすごく広いのにキッチンはとても小さくて、そんな状況の中ですぐに気づいたのは、このカフェではほとんどテイクアウェイカップしか使われていないということでした。一年間で約50,000個もの数です。

その状況をどうやって変えていきましたか?
2年目のシーズンでどうにかこの状況を変えたいと思っていたんですが、予算がおりませんでした。そこで3年目にいろいろな数字を計算して、どのくらいの予算があればどういう食器を買えて、その収支のために必要な期間はこれくらい、という試算を出したんです。私の計算では5週間だったんですが、実際には3週間しかかかりませんでした。

「テイクアウェイの紙カップの方がコーヒーが冷めない」とか「おいしく感じる」と言われることも多いと思います。お客さまに納得してもらうためにはどうするべきだと思いますか?
どちらかと言うと、私たちは普段からお客さまに対してなぜテイクアウェイでなければいけないのか考えるきっかけを与えるようにしていました。「こんなに綺麗なスキーリゾートを眺めながらゆっくりコーヒーを飲めるのに、テイクアウェイにしてすぐにお店から出て行ってしまうなんてもったいないですよ!」というような感じで。また、この取り組みを頑張ろうと思えるもうひとつの理由はオールプレスとの関係にあります。オールプレスが私たちの試みを後押ししてくれているからこそ、私たちがしていることは未来へ繋がるような良い取り組みなんだという自信が持てるんです。

こういった使い捨て問題をなくすためには何が必要だと思いますか?
1. スタッフに正しい知識を教えること。使い捨てのカップを使わないことに対してポジティブな理由を説明できるように教育することが重要です。

2. 陶器のカップに切り替えること。お客さまの数が多いお店ならハンドルなしのものにすれば倍の数を積み重ねられます。エスプレッソマシンの上に置いておけば保温もできますよ。

3. やり方と体制を整えること。増えた食器に対応するためには、これまでの仕事のやり方を見直して体制を整える必要があります。

4. お客さまのオーダーからコーヒーを飲むまでの流れをロールプレイすること。オーダー方法、待ち方、そしてコーヒーを飲むまでの流れを実際に自分たちでシュミレーションしてみて、流れに穴がないかどうかを確認します。

社会における責任 ― A collective responsibility

サラ&リンジー │ Jones & Co オーナー

Jones & Coではテイクアウェイカップ「しか」使えませんが、それは法律によるものですか?
バイロンベイでは営業許可の条件によって使い捨てのテイクアウェイカップしか使えないのはよくあることなんです。イートインスペースのあるカフェの営業許可を得るのはもっと難しくて、食洗器やグリス・トラップ(油水分離阻集器)なども設置する必要があります。座席数を増やすとなるとスタッフも増員しないといけないし…。私たちは2人きりでコーヒースタンドを営業しているので、ただコーヒーとペイストリーだけ作ればいいけれど、イートインスペースまで作ってしまったら手が回らないと思います。

リユーザブルカップの使用を促すようなサービスは導入していますか?
リユーザブルカップを使うことによってコーヒーが割引されるなど、お客さまがメリットを感じるようなサービスは導入していません。私たちはみんなが自分自身の選択に責任を持ち、それぞれが求めるライフスタイルをおくるべきだと思っているからです。もし出かけた先でコーヒーをテイクアウェイするのであればそれはリユーザブルカップを持っていった方が良いとは思うけれど、みんながそれぞれの判断に責任を持った上で正しい決断をするべきだと思います。すべてその人次第、ということです。

テイクアウェイカップでのコーヒーの売上はどのくらいですか?
おそらく売上の半分くらいはテイクアウェイカップで出したコーヒーが占めていると思います。もう半分は毎日リユーザブルカップを持ってきてくれる常連さんたちです。私たちがこの一年で発注するテイクアウェイカップの量は前に比べるとかなり少なくなりました。お店ではセラミックのリユーザブルカップも販売していて、それも売上の一部になっているんです。

もしオーストラリアでテイクアウェイカップの使用が禁止されたら、Jones & Coはどうなってしまうと思いますか?
もしそうなったら、それはぜひ国の要請を受け入れたいと思っています。常連さんたちは変わらずにカフェに来てくれると思うし、テイクアウェイカップを使わないための何かしらの解決策もあるはずです。つまりは習慣を変える、ということですもんね。

 

あとがき ― Summary

リチャード、スティーブ、ニーナ、サラ、そしてリンジーは、世界という大きなコミュニティ全体のために懸命に取り組んでいます。ほかの人々が幻の銀の弾丸を探している間にも、彼らはこの問題の解決につながる方法を着実に見出そうとしているのです。

いつの日か、私たちは何も心配のいらない完璧な世界に住むことができるようになるのかもしれません。しかし、この先コンポスト製品の回収ボックスもいたるところに設置されるようになったとして、そこにテイクアウェイカップを入れるかどうかはあなた次第です。明日、コーヒーの割引やスタンプカードのために鍵と携帯、リユーザブルカップを持って、急いでドアを開けるかどうかもあなた次第です。そして今日、5分早く起きて近所のカフェに行き、陶器のカップに淹れられたコーヒーを楽しむかどうかもあなた次第です。

この「便利さ」との戦争は、私たち一人ひとりに共通する戦いです。今こそ目を覚まして、私たちが世界を動かす変化そのものとならなくてはなりません。なぜなら、この戦争にはすべてを解決できる銀の弾丸なんてないのだから。